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社会保障法

2018年10月 1日 (月)

生活保護法第63条による返還請求権の一部の非免責債権化

1 生活保護法第77条の2,第78条の2の施行

生活保護法第63条による返還請求権の一部を非免責債権化し,保護費からの天引きを可能にする生活保護法の改正法が今日から施行されています。

第77条の2

急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けた者があるとき(徴収することが適当でないときとして厚生労働省令で定めるときを除く。)は、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村の長は、第63条の保護の実施機関の定める額の全部又は一部をその者から徴収することができる。

2 前項の規定による徴収金は、この法律に別段の定めがある場合を除き、国税徴収の例により徴収することができる。

第78条の2

保護の実施機関は、被保護者が、保護金品(金銭給付によつて行うものに限る。)の交付を受ける前に、厚生労働省令で定めるところにより、当該保護金品の一部を、第77条の2第1項又は前条第1項の規定により保護費を支弁した都道府県又は市町村の長が徴収することができる徴収金の納入に充てる旨を申し出た場合において、保護の実施機関が当該被保護者の生活の維持に支障がないと認めたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該被保護者に対して保護金品を交付する際に当該申出に係る徴収金を徴収することができる。



2 厚生労働省令により非免責債権化から除外される場合

上記1のとおり,生活保護法77条の2には「(徴収することが適当でないときとして厚生労働省令で定めるときを除く。)」という留保が付されており,この「厚生労働省令で定めるとき」については,生活保護法施行規則に以下のとおり定められました。

(厚生労働省令で定める徴収することが適当でないとき)

第22条の3

法第77条の2第1項の徴収することが適当でないときとして厚生労働省令で定めるときは、保護の実施機関の責めに帰すべき事由によつて、保護金品を交付すべきでないにもかかわらず、保護金品の交付が行われたために、被保護者が資力を有することとなつたときとする。



3 「保護の実施機関の責めに帰すべき事由」の具体例

上記2の「保護の実施機関の責めに帰すべき事由」とは具体的にどのような場合を指すのかですが,2018年9月4日に行われた生活保護関係全国係長会議の配付資料では,以下のような場合が具体例として挙げられています。

2 法第77条の2に基づく費用徴収決定について

法第77条の2第1項及び生活保護法施行規則(昭和25年厚生省令第21号)第22条の3に基づき費用徴収の例外となる「保護の実施機関の責めに帰すべき事由によつて、保護金品を交付すべきでないにもかかわらず、保護金品の交付が行われたために、被保護者が資力を有することとなつたとき」とは、具体的には、被保護者から適時に収入申告書等が提出されていたにもかかわらずこれを保護費の算定に適時に反映できなかった場合、保護の実施機関が実施要領等に定められた調査を適切に行わなかったことにより保護の程度の決定を誤った場合等である。

2018年2月28日 (水)

「受け取りすぎた生活保護費を全額返還するのは当然だ。」は本当か?-その3・過誤払いと生活保護法63条-

前回の記事で,生活保護法63条が本来適用される場面について解説しましたが,このほかにも,生活保護法63条が適用されている場面があります。

それが,生活保護費の過誤払いの場面です。

例えば,生活保護の受給開始後,被保護者が就労して給料を受け取っていたが,

①被保護者が収入申告が必要なことを認識していなかったために収入申告がなされず,月々の保護費から給与相当額が差し引かれずに支給されていた。

あるいは,

②被保護者は収入申告をしていたが,福祉事務所がこれを見落としており,月々の保護費から給与相当額が差し引かれずに支給されていた。

というような場合を考えてみましょう。

Kago

「過誤払い型」の特徴

資力が発生と同時に現実化すること

まず,資力の発生時期と資力が現実化する時期に時間的な隔たりはなく,資力は発生と同時に現実化しています。
したがって,「生活保護法63条本来型」とは異なり,「資力があるが現実化していない」期間は存在しません。

生活保護費の支給決定に過誤があること

次に,資力が発生と同時に現実化しているにもかかわらず,これが収入認定の対象とされず,保護費から差し引かれないまま保護費が支給されるため,保護費の支給決定(上記の図の「保護費支給②~⑩」)には過誤(間違い)があります。

資力が費消済みである可能性が高いこと

そして,資力が発生と同時に現実化しているため,誤支給が判明する時点までに保護費や給与が費消されてしまい,被保護者が返還能力を有していない可能性が高いといえます。

「過誤払い型」の取扱い

原則としての遡及変更

「過誤払い型」の場合,生活保護費の支給決定に過誤(間違い)があるわけですから,本来であれば,間違った支給決定(上記の図の「保護費支給②~⑩」)を遡って変更する(やり直す)べきです。
そうすると,支給決定の遡及変更により,既に支払われた保護費はその根拠を失いますので,被保護者は,民法703条という法律により支給済み保護費の返還義務を負います(なお,この返還義務については,生活保護法80条によって免除することができます。)

ただ,この取扱いには1つ問題があり,行政が一度行った変更をいつまでも不確定な状態にしておくのは妥当ではないという考え方から,支給決定を遡って変更することができるのは3か月程度であると考えられています(『生活保護手帳別冊問答集2017』問13-2)。

そのため,福祉事務所は,上記の図のうち「保護費支給⑨・⑩」については,支給決定の遡及変更をすることで,民法703条によって返還を求めることができますが,それより前の「保護費支給②~⑧」については,返還を求めることができないということになります。

生活保護法63条の適用

しかし,実際には,過誤払い型についても生活保護法63条を適用することで,支給決定を遡って変更することができる3か月にとどまらず,「保護費支給②~⑩」すべてについて返還を求めるのが行政実務の取扱いです。

生活保護法63条が本来予定している場面ではないにもかかわらず,生活保護法63条を適用できる根拠として,以下の2つを挙げることができます。

・『急迫等の場合における』の『等』に,福祉事務所が必要な調査を尽くしていなかったために,資力があるにもかかわらず資力なしと誤認して保護の決定をした場合や,福祉事務所が保護の程度の決定を誤って不当に高額の決定をした場合も含まれると考えられること

・返還額についての裁量が可能であること(『生活保護手帳別冊問答集2017』問13-1)

遡及変更と生活保護法63条の関係

なお,支給決定の遡及変更が可能な3か月について,実際に遡及変更を行って民法703条により返還を求めるか,遡及変更はせずに生活保護法63条により返還を求めるかは,どちらの方法でもよいとされています(『生活保護手帳別冊問答集2017』問13-4)。
この取扱いからすると,「遡及変更の取扱い(民法703条+生活保護法80条による免除)」と,「生活保護法63条」は,同じ内容であるということになります。

「過誤払い型」の返還額はどのように決められるべきか

このように,「過誤払い型」にも生活保護法63条が適用されてますが,この場合,返還額はどのように決められるべきでしょうか。

上記のとおり,「過誤払い型」に生活保護法63条が適用されている根拠の1つは,返還額についての裁量が可能であるからです。
そして,この場面における生活保護法63条の内容は,「遡及変更の取扱い(民法703条+生活保護法80条による免除)」と同じなのですから,裁量権の行使にあたっても,生活保護法80条と同様の配意がなされなければなりません。

「過誤払い型」は,誤支給が判明する時点までに保護費や給与が費消されてしまい,被保護者が返還能力を有していない可能性が高い類型ですから,被保護者の返還能力と過誤払いの経緯等を考慮のうえ,積極的に返還免除を認める必要があります。

「受け取りすぎた生活保護費を全額返還するのは当然だ。」は本当か?-その2・生活保護法63条本来の場面-

前回の記事で,

・生活保護費の返還については,「不正受給の場合」に適用される生活保護法78条と,「それ以外の場合」に適用される生活保護法63条という2つのルールが存在すること

・法文上,「不正受給の場合」に適用される生活保護法78条については全額返還とされているが,「それ以外の場合」に適用される生活保護法63条については全額返還とはされていないこと

を解説しました。

では,生活保護法63条が適用される場合,返還金額はどのように決定すべきでしょうか。
この問題を考えるにあたっては,生活保護法63条がどんな場面に適用されるルールであるのかを整理する必要があります。

生活保護法63条本来の適用場面

生活保護法63条が適用されるのは,

『被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたとき』

です。

厚生労働省の解説では,生活保護法63条とは,

『本来,資力はあるが,これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある場合にとりあえず保護を行い,資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図ろうとするもの』

であるとされています(『生活保護手帳別冊問答集2017』問13-5)。

例えば,ある世帯が,大規模災害によって急迫状態に陥り,生活保護の受給を開始したが,その後しばらくして,災害による補償金を受け取った,という場合を考えてみましょう。

Honrai

この場合,厚生労働省の解説によれば,生活保護の開始時点から(補償金という)資力があったものとして取り扱われます(『生活保護手帳別冊問答集2017』問13-6)。

したがって,生活保護の受給開始から補償金の受け取りまでに支給された保護費(上記の図の「保護費支給①~④」)は,『被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたとき』に該当しますので,生活保護法63条による返還の対象となります。

「生活保護法63条本来型」の特徴

このような「生活保護法63条本来型」の特徴として,以下の3点を挙げることができます。

現実化していない資力が存在すること

まず,資力の発生時期と,資力が現実化する時期に時間的な隔たりがあり,「資力があるが現実化していない」期間が存在します。

保護費の支給決定に過誤がないこと

次に,「資力があるが現実化していない」期間に保護費が支給されることになりますが,支給される保護費(上記の図の「保護費支給①~④」)の支給決定に過誤(間違い)はありません。
現実化していない資力は保護費から差し引かれるべきものではなく,これを差し引かずに保護費を支給していることは間違いではないからです。

現実化した資力から保護費の返還が可能であること

そして,資力が一括して現実化した後に,その現実化した資力(上記の図の「補償金受領」)から,返還の対象となる保護費を返還することが可能です。

「生活保護法63条本来型」の返還額はどのように決められるべきか。

「生活保護法63条本来型」の場合には,資力が一括して現実化した後に,その現実化した資力(上記の図の「補償金受領」)から,返還の対象となる保護費を返還することが可能です。

したがって,「原則として,資力を上限として支給した保護金品の全額を返還額」としつつ,「保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められる場合に,一定の費目について自立更生免除を認める」取扱いとしても,当該世帯の最低生活を脅かすような自体は生じにくいといえます。

ただ,そうはいっても,保護費返還決定までに現実化した資力が費消されてしまっているような場合には,当該世帯の最低生活に配慮した上で返還金額を決める必要があるでしょう。

2018年2月 9日 (金)

​ 【控訴審報告】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

控訴審での審理

「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)の控訴審ですが,2018年2月8日に2回目の口頭弁論期日が開かれ,審理が終結されました。

控訴審で新たに判明した事実

この控訴審の審理の中で,新たに明らかになった事実があります。

東村山市で発生した生活保護費の過大支給(7年間で70件,計4704万8652円)との関係

今回の裁判は,東村山市が控訴人(原告)に対し,収入の未申告により生活保護費の過支給が生じたとして保護費約73万円の返還を命じる決定をしたことから,控訴人(原告)が,この決定の取消しを求めて争っているものです。

ところで,以前の記事でも書きましたが,東村山市では,平成18年度から平成24年度にかけて,生活保護費の過大支給(7年間で70件,計4704万8652円)が起き,関係した職員に対する懲戒処分等が行われています(http://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/shisei/koho/press-release/kouho2013press.files/20131111choukai.pdf)。

そして,今回,東村山市が控訴人(原告)に対して返還決定をした生活保護費約73万円は,上記の過大支給(7年間で70件,計4704万8652円)のうちの1件であることが分かりました。
(加えて,このことを裏付ける資料には,東村山市側の未処理内容として「収入認定未変更」と記載されていることも判明しました。)

東京都福祉保健局保護課による特別指導検査での指摘事項

また,上記の生活保護費の過大支給の発覚後,平成25年8月27日から同月29日にかけて,東京都福祉保健局保護課による特別指導検査が行われ,その結果として,東村山市に対して以下の指摘がなされています。

・ケースワーカーが標準数の29名に対して10名不足しており,担当世帯数が120世帯を超え,事務負担が重くなっていたことが,事務処理の遅れ,基本的な業務の漏れ,事務懈怠発生の一因と考えられること。

・長期間にわたって収入申告書の徴取がなされていないものが多数存在すること。

・長期間にわたって家庭訪問がなされていないもの,ケース記録の記載のないものが散見されたこと。

担当ケースワーカーの不可解な対応の背景にあったもの

控訴人(原告)に対して保護費の過支給がなされた経緯について解説した以前の記事の中で,控訴人(原告)の担当ケースワーカーの対応に,

・控訴人(原告)に収入申告を促した記録がないこと

・平成24年5月を最後に,平成25年4月までケース記録の記載が一切ないこと

・担当ケースワーカーが家庭訪問をした記録がないこと

・収入認定額について,平成24年5月分として認定された金額が1年以上もそのまま認定され続けていること

といった不可解な点があることを指摘しましたが,今回,その理由や背景事情も明らかになりました。

控訴審判決について

控訴審判決は,2018年4月に言い渡される予定です。

2018年2月 8日 (木)

【補足4】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

考え方の異なる東京地裁の2判決

東京地方裁判所平成29年9月21日判決

前回の記事で,『過支給が生じた経緯が何であろうと,返還能力が無かろうと,そのことは返還金額には関係がなく,全額を返還させるのが原則なのだ。』というのが今回の判決(東京地判平成29年9月21日)の考え方であることをご紹介しました。

実際に,今回の判決は,生活保護法63条と返還能力の関係について,以下のとおり判示しています。

『原告は,本件処分時には,現実の資産としては,現金はほとんど有しておらず, 預貯金を10万円程度有していたにすぎないことから , 本件返還金額の全額を返還する資力を有していなかった旨を主張するが,…生活保護費が過払いとなったにもかかわらず, 被保護者がこれを費消したために生活保護法63条による返還の対象とならないものとすると,本来受給することができなかった金員を受給することを認めることとなり,不合理であることは明らかである。』

東京地方裁判所平成29年2月1日判決

ところが,今回の判決が『不合理であることは明らかである』とする取扱いを,東京地裁の別の判決(東京地判平成29年2月1日)は正面から認めています。

『法63条に該当する被保護者について,その資産や収入の状況,その受けた保護金品の使用の状況,その生活実態,当該地域の実情等の諸事情に照らし,返還金の返還をさせないことが相当であると保護の実施機関が判断する場合には,当該被保護者に返還金の返還をさせないことができるものと解される。』

行政における異なる2つの取扱い

返還決定を取り消す自治体

そして,行政においても,

・過払いとなった生活保護費の返還決定が県の裁決で取り消された例
『過払い返還取り消し 県裁決 大津市福祉事務所に /滋賀』

・過払いとなった生活保護費の返還請求を自主的に取りやめた例
東日新聞『受給者に返還求めず市長の減給や職員の処分も/生活保護費の過支給で豊橋市』

といった取扱いがみられるようになっています。

東村山市での取扱い

生活保護費の過支給とは,なにも不正受給の場合に限って起きるものではなく,様々な場面で様々な理由で起こりえます。

実際に,今回の裁判の被告である東村山市においても,平成18年度から平成24年度にかけて,職員の不適正な事務処理により,70件の過大支給(計4704万8652円)が起き,関係職員に対する懲戒処分等が行われています。
http://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/shisei/koho/press-release/kouho2013press.files/20131111choukai.pdf

そして,この過大支給分の取扱いについては,東村山市議会において,福祉事務所長から,

『あくまで過払い、すなわち支払ってはいけないものを支払っている状況でございますので、私どもといたしましては粘り強く返還を求めていきたいと考えております。』

と述べられています。
平成25年東村山市議会6月定例会東村山市議会会議録第10号

さて,この記事を読まれた皆さんは,この中のうち,どの取扱いが『合理的』で,どの取扱いが『不合理』と思われるでしょうか。

【補足3】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

前回の記事のとおり,Aさんに生活保護費が多く支給された理由について,東京地判平成29年9月21日は判決文の中で触れませんでした。

複雑な経緯なので少し長くなりますが,今回の裁判でAさんが主張していることを補足したいと思います。

Aさんに生活保護費が多く支給された理由と経緯

今回の裁判でAさんが主張している,Aさんに生活保護費が多く支給された理由と経緯は以下のとおりです。
______________________________

生活保護の受給と就労の開始

Aさんは,平成23年9月と11月に甲状腺の手術を受け,平成24年2月から生活保護の受給を開始しました。

Aさんは,医師から就労を控えるように指導されていましたが,早く保護から抜けて自立した生活を送ろうと,3月末から派遣社員としてフルタイムでの仕事を始めました。

収入申告書の提出

4月に入ると,Aさんは,担当ケースワーカーのBさんに対し,3月末から働き始めたことと,4月中頃に初回の給与が振り込まれることを書いた収入申告書を提出しました。

そして,5月には,4月中旬に支払われた給与〔3月末に働いた数日分〕の明細と,4月末に支払われた給与〔4月前半分〕の明細を添付した収入申告書をBさんに提出しています(給与は月2回払いでした)。
また,収入申告書を提出した日の夜に,Aさんは,今後も4月末に支払われた給与〔4月前半分〕と同じくらいの金額が月に2回支払われることを電話でBさんに伝えました。

Aさんは,収入申告を毎月しなければいけないという説明を受けておらず,保護を受け始めた際の説明や,保護のしおりの記載などから,仕事を始めたときと退職したときに申告をするのだと理解していました。
そして,Bさんにその後の収入予定(4月末に支払われた給与〔4月前半分〕と同じくらいの金額が月に2回支払われること)も伝えたことから,Aさんは,これで収入申告は済んだと思っていました。

担当ケースワーカーの収入認定

しかし,実際には,Bさんが収入認定の対象にしていたのは,4月中旬に支払われた給与〔3月に働いた数日分〕と4月末に支払われた給与〔4月前半分〕についてでした。
このうち,4月中旬に支払われた給与は,3月に働いた数日分ですから,半月分が支払われるその後の給与の額とはかなりの差があります。
そのため,Bさんが把握していた収入額(=収入認定額)とAさんの実際の給与額に差が生じ,保護費の過支給が生じました。

退職と離職票の提出

その後,Aさんは,派遣期間の満了で10月末に退職するまで仕事を続けましたが,その間,Bさんから連絡が来ることはありませんでした。

11月に入り,Aさんが退職したことをBさんに報告すると,これまでの給与額の内訳が分かる書類を提出するようBさんから求められたため,12月に離職票を提出しました。

パソコンの購入

また,この頃,Aさんが約10年間使用していたPCが故障したため,AさんはPCを買い換えています。

給与明細の提出

その後,Aさんは,Bさんから,働いていたときの給与明細をすべて提出するよう求められたため,平成24年1月に給与明細を印刷してBさんに提出しました。

ところが,給与明細の提出後も,BさんからAさんには特に何の連絡もないまま時間が過ぎていきました。
Aさんは,通院や就職活動を続けていました。

担当ケースワーカーの交代と保護費の返還決定

そして4月に入り,Aさんの担当ケースワーカーが,BさんからCさんに交代になりました。

5月,Aさんは,新しく担当となったCさんから収入申告の遅れを指摘されるとともに,返還金が生じることを告げられました。

この時点で,Aさんは過支給された保護費を費消してしまっており,次の仕事も見つかっておらず,返還することは不可能でした。
しかし,福祉事務所は,Aさんに対し,返還が可能かどうかを尋ねることも,自立更生免除の制度について説明することもせずに,約90万円の返還を命じる処分をしました。

その後,審査請求の中で,返還金額の計算に誤りがあることが判明し,返還金額は約70万円に変更されました。
しかし,Aさんが裁判で訴えた,PCの購入費用その他の支出分の返還免除については,今回の判決は一切これを認めませんでした。
______________________________

担当ケースワーカーBさんの不可解な対応

この経緯の中で,特に担当ケースワーカーであったBさんの対応には,不可解な点が多くあります。

まず,Bさんが作成していたAさんのケース記録には,BさんがAさんに収入申告を促した記録がありません。
それどころか,Aさんのケース記録には,平成24年5月にAさんとBさんが電話で話したことが記録されて以降は,平成25年4月に担当ケースワーカーがBさんからCさんに交代になるまで,何も記載されていません。

もちろん,BさんがAさん宅を家庭訪問した記録もありませんし,BさんがAさんの勤務先や公共職業安定所にAさんの収入状況を照会した記録もありません。
また,収入認定額も,平成24年5月分として認定された金額が,平成25年5月分まで1年以上もそのまま認定され続けています。

しかし,今回の判決では,これらの不可解な点について判決理由の中で触れられることはありませんでした。

過支給が生じた経緯が何であろうと,Aさんに返還能力が無かろうと,そのことは返還金額には関係がなく,全額を返還させるのが原則なのだ,というのが今回の判決の考え方だからです。

2017年12月 9日 (土)

「受け取りすぎた生活保護費を全額返還するのは当然だ。」は本当か?-その1・生活保護法63条と78条の違い-

「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)について、

というご意見も少なからず頂戴しました。

さて,このツイートのように「受け取りすぎた生活保護費を全額返還させるのは当然だ。」と本当に言えるのでしょうか。

生活保護費の返還に関する2つのルール

この問題を考えるためには,生活保護法の仕組みについていくつか理解しなければならないことがあります。
そのうちの1つが,受け取りすぎた生活保護費の返還に関する2つのルール(生活保護法63条と78条)の違いです。

生活保護法78条

『不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。』

この規定は,いわゆる「不正受給」(不実の申請その他不正な手段により保護を受けたとき)の生活保護費返還のルールを定めています。

この規定の「その費用の額の全部又は一部を,その者から徴収する」というのは,
・受け取った生活保護費の全部が不正受給の場合は,その全額を,
・受け取った生活保護費の一部が不正受給の場合には,その一部について全額を
返還させるという意味だとされていますので,まさに「全額返還」です。

生活保護法63条

『被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。』

この規定は,「不正受給」以外の場合(被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたとき)の生活保護費返還のルールを定めています。

この規定では,返還金額は「受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額」とされており,法文上は「全額返還」とはされていません。

生活保護費の返還を求められたら

このように,受け取りすぎた生活保護費の返還については,生活保護法78条と63条という2つの異なるルールが定められていますので,生活保護費の返還を求められている方は,ご自身が生活保護法78条と63条のどちらによって返還を求められているのかをまずは確認する必要があります。

2017年11月29日 (水)

【補足2】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

昨日の朝日新聞の記事との関係で,

・新聞の記事からは,生活保護費が多く支給された経緯等が分からない。

・先日のブログ記事と,新聞記事の内容が食い違っている。

というご意見をいただきました。

これは判決内容とも関係しますので,以下で補足したいと思います。

生活保護法63条に基づく返還決定であること

まず,1つ前の記事に書いたとおり,本件でAさんが多く受け取った生活保護費の返還を求められた根拠規定は生活保護法63条です。
生活保護法第78条ではなく,Aさんが保護費を不正受給したわけではありません。

生活保護費が過支給となった経緯

判決文について

では,なぜ生活保護費が多く支給されたのかについてですが,この点について,東京地判平成29年9月21日は,判決文の中で触れていません。

これは,1つ前の記事で書いたとおり,この判決が,生活保護法第63条に基づく返還請求について,被保護者の状況や多く支給された経緯等にかかわらず,原則として全額を返還させる(そして,例外的に「自立更生のためのやむを得ない用途」等に充てられた場合には,その金額について返還を免除する)という行政実務の取扱いを正当だと判示していることによるものです。

この判決の立場による限り,被保護者の状況(返還能力の有無等)や保護費が多く支給された経緯がどうであれ,生活保護法第63条による返還金額の決定には関係がないので,判決の中で触れる必要もない,ということになります。
(これが,この判決の大きな問題点です。)


ですので,この判決は,Aさんに生活保護費が多く支給された原因については触れていませんし,今後公開される判決文を読んだとしても,生活保護費が多く支給された原因は分かりません。

朝日新聞の記事について

そして,朝日新聞の記事は,(生活保護費が多く支給された原因については触れていない)判決文をもとに書かれているわけですから,朝日新聞の記事を読んでも,やはり生活保護費が多く支給された経緯は分からないはずです。

その結果,判決文には書かれていない事情も踏まえて書いている私のブログ記事とは内容が食い違っているように見える,ということかと思います。

2017年11月28日 (火)

【補足1】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

先日の記事に掲載した東京地判平成29年9月21日について,新聞でも取り上げていただくなど大変多くの反響をいただきました。
Twitter等で皆さんのご意見を拝見する中で,私自身上手く伝えられていないと思った点を少しだけ補足したいと思います。

生活保護法63条に基づく返還決定であること

まず,原告のAさんは,以下に引用する生活保護法第63条という規定に基づいて,結果的に多く支給されていた生活保護費約70万円の返還を求められています。

「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」

生活保護法63条に基づく返還金額の決め方

生活保護法第63条で返還が求められるのは「受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額」であり,「受けた保護金品に相当する金額全額」ではありません。

つまり,実際にいくら返還させるのかは,保護の実施機関の判断(裁量)に委ねられているわけですが,だからといって,保護の実施機関が自由に返還金額を決めていいわけではありません。

生活保護法第63条が保護の実施機関に返還金額の決定について裁量を与えているのは,全額を返還するのが不可能な場合や不適当な場合に,被保護者の状況をよく知っている保護の実施機関が,被保護者の状況等を考慮することによって適切な金額を定めることができるからだとされています。

保護の実施機関は,この生活保護法63条の趣旨や,最低生活保障と自立助長を目的とする生活保護法全体の趣旨に沿うよう適切に裁量権を行使しなければなりません。

行政実務の取扱い

ところが,実際の行政実務では,生活保護法第63条に基づく返還請求について,被保護者の状況や多く支給された経緯等にかかわらず,原則として全額を返還させる(そして,例外的に「自立更生のためのやむを得ない用途」等に充てられた場合には,その金額について返還を免除する)という取扱いがなされています。

今回の判決の問題点

先日の記事でご紹介した東京地判平成29年9月21日の判示は,この行政実務の取扱いは正当であり,Aさんが返還免除を求めたパソコン代は,「自立更生のためのやむを得ない用途」には該当しないから免除は認められないと判断したものです。

Aさんが返還免除を求めたパソコン代について「自立更生のためのやむを得ない用途」に該当しないという判断もそうですが,それ以上にこの判決で問題なのは,生活保護法第63条に基づく返還請求について「原則は全額返還である。」と判断している点であり,その点こそ正されなければならないと考えています。

生活保護法78条に基づく返還決定との違い

なお,この件について,「不正受給した保護費を返すのは当然だ。」という意見も拝見しましたが,この件は不正受給ではありません。
(Aさんに保護費が多く支給された経緯については非常に長くなるので,どこかで改めて補足しようと思います。)
不正受給の場合には,生活保護法第63条ではなく,生活保護法第78条という文字通りの「全額返還」となる規定が適用されます。

『「PCは人から借りられる」生活保護費の返還命じる判決』(東京地判平成29年9月21日)についてのコメント掲載(朝日新聞)

平成29年11月28日の朝日新聞朝刊に,私が担当している東京地判平成29年9月21日についての記事が掲載されました。

『「PCは人から借りられる」生活保護費の返還命じる判決』(http://www.asahi.com/articles/ASKCW62D3KCWUTIL05H.html?iref=comtop_8_05

2017年11月25日 (土)

「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

私が担当している裁判(生活保護法第63条の規定に基づく費用返還請求処分取消請求事件)で,目を疑うような内容の判決が言い渡されました。

原告の訴え

原告であるAさんは,生活保護を受給していましたが,手違いにより,1年間で生活保護費が70万円ほど多く払われていました。
Aさんは,そのことに気づかず,70万円のうち6万円でパソコンを買い,就職活動などに使っていました。
その後,Aさんは役所から保護費70万円を全額返せと言われたので,パソコンの購入費用6万円については,今後自立するために必要なやむを得ない支出なので,返還額から免除して欲しい,と裁判所に訴えました。

裁判所の判断

この原告の訴えに対し,東京地方裁判所民事第2部(林俊之,梶浦義嗣,高橋心平裁判官)は以下のとおり判断しました。

『原告は,本件パソコン等は,求職活動や,〇〇会社で就労していた際の派遣元である××会社では,給与明細をパソコン等で印刷しなければならず,原告が収入申告を行うためには,必要不可欠であった旨を主張する。

しかし,原告が主張する上記用途であれば,パソコン等を一時的に知人等から借りるなどして賄うことができ,本件パソコン等は自立更生のために不可欠とはいえず,その他自立更生のために不可欠といえる用途があることはうかがわれない。したがって,本件パソコン等代金を自立更生免除の対象としなかった処分行政庁の判断が不合理とはいえない。』

…裁判官というのは,日常的にパソコンの貸し借りをするんでしょうか(少なくとも私はパソコンの貸し借りなんてしません。)。
就職活動に必要なパソコンを知人から借りて賄うというのは,求人への応募,それ対する会社からの返答,それに対する対応…といったやり取りをすべて知人からパソコンを借りてやる,ということでしょうか。
そもそも,パソコンを貸してくれる知人等がいない世帯の場合にはどうするんでしょうか。

あまりに酷い判示に開いた口が塞がりませんが,本件は控訴していますので,高裁で正しい判断がなされることを期待したいと思います。

なお,この裁判については,以下の5つの記事で補足していますので,あわせてご覧ください。

【補足1】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

【補足2】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

【補足3】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

【補足4】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

【控訴審報告】「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)

2017年10月21日 (土)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その6

以前記事を書いた,年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点について,平成29年10月17日に最高裁の判決が出ました。

私見では,(裁定前の)支分権についての「権利を行使することができる時」は,停止条件付債権の場合と同様に,条件成就の時(=社会保険庁長官による裁定時)であり,裁定までは消滅時効期間は進行しないと考えていましたが,今回,最高裁は「障害年金に係る裁定を受ける前であっても,厚生年金保険法36条所定の支払期が到来した時から進行する」として,裁定の前であっても消滅時効期間は進行すると判断しました。

個人的には,この最高裁の判断には疑問が残りますが,判決内容についての詳細な検討は,追ってブログ等で記事にしようと思います。

【最三判平成29年10月17日】
厚生年金保険法(昭和60年法律第34号による改正前のもの)47条に基づく障害年金の支給を受ける権利の消滅時効は,当該障害年金に係る裁定を受ける前であっても,厚生年金保険法36条所定の支払期が到来した時から進行する。
(判決全文はこちら

2016年10月17日 (月)

日本社会保障法学会第70回秋季大会

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日本社会保障法学会第70回秋季大会@神奈川大学に参加してきました。

2016年5月24日 (火)

「自立更生のためにあてられる義援金」とは?-生活保護と義援金③-

前回までの記事で,『自立更生のためにあてられる義援金は,被保護世帯の「収入」とは認定されない』ことを書きました。

最後に残る問題は,義援金を何に使えば「自立更生のためにあてられる」ことになるのか(=義援金の使途)です。

これについては,平成23年5月2日付「東日本大震災による被災者の生活保護の取扱いについて(その3)」の別紙2にわかりやすくまとめられています。
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この費目の根拠となるのは,「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日 社保第34号 厚生省社会局保護課長通知)という通知です。
非常に長くて細かいですが,以下に引用しておきます。

問40 局長通知第8の2の(3)及び(4)にいう自立更生のための用途に供される額の認定は、どのような基準によるべきか。

答 被保護世帯の自立更生のための用途に供されるものとしては、次に掲げる経費にあてられる額を認めるものとすること。これによりがたい特別の事情がある場合は、厚生労働大臣に情報提供することなお、この場合、恵与された金銭又は補償金等があてられる経費については、保護費支給又は就労に伴う必要経費控除の必要がないものであること。

(1) 被保護者が災害等により損害を受け、事業用施設、住宅、家具什器等の生活基盤を構成する資産が損われた場合の当該生活基盤の回復に要する経費又は被保護者が災害等により負傷し若しくは疾病にかかった場合の当該負傷若しくは疾病の治療に要する経費

(2) (1)に掲げるもののほか、実施機関が当該被保護世帯の構成、世帯員の稼働能力その他の事情を考慮し、次に掲げる限度内において立てさせた自立更生計画の遂行に要する経費

ア 当該経費が事業の開始又は継続、技能習得等生業にあてられる場合は、生活福祉資金の更生資金の貸付限度額に相当する額

イ 当該経費が医療にあてられる場合は、医療扶助基準による医療に要する経費及び医療を受けることに伴って通常必要と認められる経費の合算額

ウ 当該経費が介護等に充てられる場合は、生活福祉資金の療養・介護資金の貸付限度額に相当する額

エ 当該経費が家屋補修、配電設備又は上下水道設備の新設、住宅扶助相当の用途等にあてられる場合は、生活福祉資金の住宅資金の改修費の貸付限度額に相当する額

オ 当該経費が、就学等にあてられる場合は、次に掲げる額
(ア) 当該経費が幼稚園等での就園にあてられる場合は、入園料及び保育 料その他就園のために必要と認められる最小限度の額
(イ) 当該経費が義務教育を受けている児童の就学にあてられる場合は、入学の支度、学習図書、運動用具等の購入、珠算課外学習、学習塾費等、修学旅行参加等就学に伴って社会通念上必要と認められる用途にあてられる最小限度の実費額
(ウ) 当該経費が高等学校等、夜間大学又は技能修得費(高等学校等就学費を除く)の対象となる専修学校若しくは各種学校での就学にあてられる場合は、入学の支度及び就学のために必要と認められる最小限度の額(高等学校等の就学のために必要と認められる最小限度の額については、学習塾費等を含む。貸付金については、原則として、高等学校等就学費の支給対象とならない経費(学習塾費等を含む。)及び高等学校等就学費の基準額でまかないきれない経費であって、その者の就学のために必要な最小限度の額にあてられる場合に限る。)

カ 当該経費が、結婚にあてられる場合は寡婦福祉資金の結婚資金の貸付限度額に相当する額

キ 当該経費が弔慰に当てられる場合は、公害健康被害の補償等に関する法律による葬祭料の額

ク 当該経費が、当該世帯において利用の必要性が高い生活用品であって、保有を容認されるものの購入にあてられる場合は、直ちに購入にあてられる場合に限り、必要と認められる最小限度の額

ケ 当該経費が通院、通所及び通学のために保有を容認される自動車の維持に要する費用にあてられる場合は、当該自動車の利用に伴う燃料費、修理費、自動車損害賠償保障法に基づく保険料、対人・対物賠償に係る任意保険料及び道路運送車両法による自動車の検査に要する費用等として必要と認められる最小限度の額

コ 当該経費が国民年金受給権を得るために充てられる場合は、国民年金の任意加入保険料の額

「自立更生のためにあてられる義援金」とは?-生活保護と義援金②-

1つ前の記事で,『自立更生のためにあてられる義援金は,被保護世帯の「収入」とは認定されない』ことを書きました。

そこで問題になるのは,義援金を具体的にどうすれば「自立更生のためにあてられる」ことになるのか,です。

この点について,厚生労働省からは以下の通知が出されています。
1つ目は,「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日 社発第246号 厚生省社会局長通知)です。

第8 収入認定の取扱い
(中略)
2 収入として認定しないものの取扱い
(中略)
(4) 自立更生のための恵与金、災害等による補償金、保険金若しくは見舞金、指導、指示による売却収入又は死亡による保険金のうち、当該被保護世帯の自立更生のためにあてられることにより収入として認定しない額は、直ちに生業、医療、家屋補修等自立更生のための用途に供されるものに限ること。ただし、直ちに生業、医療、家屋補修、就学等にあてられない場合であっても、将来それらにあてることを目的として適当な者に預託されたときは、その預託されている間、これを収入として認定しないものとすること。
また、当該金銭を受領するために必要な交通費等及び補償金等の請求に要する最小限度の費用は、必要経費として控除して差しつかえない。
(以下省略)

この通知は,義援金の使途ではなく,使うタイミングについて定めたもので,「直ちに」使うか,将来使う場合には適当な者に預託することとしています。

ただし,東日本大震災の際には,この通知は,

当該被保護世帯の自立更生のために充てられる費用であれば、直ちに自立更生のための用途に供されるものでなくても、実施機関が必要と認めた場合は、預託することなく、自立更生計画に計上して差し支えないこと。
ただし、実施機関は、自立更生計画の実施状況について(自立更生に充てられたものとして手続を簡略にした分を除く)、適宜、被保護世帯に報告を求めるなどの方法により把握すること。

と修正されており(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001bd6k-img/2r9852000001be5y.pdf),今回の熊本地震についても同様の取扱いとされることなっています(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000123911.pdf)。

従って,義援金を「直ちに」使う必要はありません。

あとは,義援金を何に使えば「自立更生のためにあてられる」ことになるのか(=義援金の使途)ですが,こちらについては,次の記事で詳しく解説したいと思います。

自立更生のためにあてられる義援金は,被保護世帯の「収入」とは認定されない-生活保護と義援金①-

「義援金は収入」善意に壁 生活保護停止も 受け取り迷う被災受給者(西日本新聞)

先日,こんなタイトルのニュース記事がネット上に流れていました。

この記事のタイトルだけを見ると,義援金がすべて「収入」として扱われてしまい,「収入」と認定された分だけ生活保護費が減額される,あるいは生活保護が停止・廃止されるような印象を受けますが,決してそんなことはありません。

以下,厚生労働省の通知をもとに解説してみます。

「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日 厚生省発社第123号 厚生事務次官通知)では,以下のとおり定められています。

第8 収入の認定
収入の認定は、次により行うこと。
(中略)
3 認定指針
(3) 次に掲げるものは、収入として認定しないこと。
ア 社会事業団体その他(地方公共団体及びその長を除く。)から被保護者に対し て臨時的に恵与された慈善的性質を有する金銭であって、社会通念上収入として認定することが適当でないもの

(中略)
オ 災害等によって損害を受けたことにより臨時的に受ける補償金、保険金又は見舞金のうち当該被保護世帯の自立更生のためにあてられる額
(以下省略)

震災の義援金については,第8の3(3)アまたはオの適用が考えられますが,厚生労働省は,第8の3(3)オを適用するという見解を採っているようです。
(以下では,厚労省の見解に基づいて解説します。)

震災の義援金について,第8の3(3)オが適用されるということは,この記事のタイトルのとおり『自立更生のためにあてられる義援金は,被保護世帯の「収入」とは認定されない』ということです。

ただ,この通知だけでは,義援金を具体的にどうすれば「自立更生のためにあてられる」とされ,収入認定から除外されるのかまでは分かりません。
この点については,長くなるので別の記事で解説したいと思います。

2015年1月19日 (月)

厚生年金未加入に対する対応策・その10~年金記録第三者委員会への申立て~

時効消滅した保険料に係る被保険者期間について,将来の年金額に反映してもらうためには,まず,年金記録第三者委員会に,記録の訂正を申し立てる必要があります。

被保険者からの申し立てを受けると,年金記録第三者委員会は,提出された資料をもとに,事業主が被保険者から保険料を徴収していたか否か(=給与から源泉徴収されていた事実があったか否か)等を判断します。

そして,年金記録第三者委員会が,保険料の源泉徴収があった(かつ,事業主がその保険料を納付したかが明らかでない)と認定した場合,厚生労働大臣は,年金記録第三者委員会の意見にしたがって,被保険者資格取得の確認や,標準報酬月額の決定等を行い(厚生年金特例法1条1項),被保険者の年金記録を訂正します(同条2項)。

この訂正があると,時効消滅の前に事業主による届出(厚年27条)があったものとして扱われ,厚生年金保険法75条但書の適用が受けられることになります。

この手続によって,時効消滅した保険料に係る被保険者期間についても,将来の年金額に反映されることとなるのです。

(この記事をご覧になられてのお問い合わせ・ご相談はこちら。)

厚生年金未加入に対する対応策・その9~年金記録第三者委員会への申立て~

給与明細上,厚生年金保険料が源泉徴収されていたということは,被保険者自身は保険料を負担していたことになります。

このような場合に保険料徴収権が時効消滅したということは,被保険者から保険料を徴収した事業主が厚生労働大臣への届出を怠り,
被保険者から徴収した保険料を保険者に納付しなかった,ということになりますが,このような場合にまで,時効消滅した保険料に係る被保険者期間分の保険給付が行われないとすれば,それは極めて不合理です。

このように,年金保険料を負担した記録がありながら,社会保険庁の年金記録に反映されていないという事態が多数生じ,いわゆる「消えた年金」問題として社会問題化しました。

この「消えた年金」問題への対策として,「厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律」(=厚生年金特例法)が制定され,平成19年12月19日から施行されています。

この厚生年金特例法は,厚生年金保険料が源泉徴収されていた場合などには,事業主による届出や被保険者による確認請求の前に時効消滅した保険料に係る被保険者期間についても,将来の年金額に反映させることとし,そのための手続を定めています。

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厚生年金未加入に対する対応策・その8~年金記録第三者委員会への申立て~

前回までの記事では,厚生年金の保険料徴収権が時効消滅した場合の対応策として,事業主に対する損害賠償請求についてご紹介しました。

この損害賠償請求以外に,給与明細上で厚生年金保険料が源泉徴収されていた(それにもかかわらず,厚生年金に未加入となっていた)ような場合には,年金記録第三者委員会への申立てを利用することが可能です。

次からの記事では,この申立ての手続についてご紹介します。

(この記事をご覧になられてのお問い合わせ・ご相談はこちら。)

厚生年金未加入に対する対応策・その7~事業主に対する損害賠償請求~

⑤の過失相殺については,厚生年金保険法31条1項が被保険者に確認請求を認めている事との関係で,被保険者が確認請求をしなかったことが被保険者側の過失となるかが問題となります。

この問題について,前の記事でご紹介した豊國工業事件判決(奈良地判平成18年9月5日)は,以下のとおり判示して,過失相殺を認めませんでした。

『…被告は,原告が時給が減額されるという理由で社会保険加入を断ったものであり,厚生年金保険法31条によれば,被保険者又は被保険者であった者は,いつでも18条1項の規定による確認(被保険者の資格の取得及び喪失についての社会保険庁長官の確認)を請求することができるのに,原告はその請求をせず,被告のした処理に関し,長年にわたって何らの異議申立てを行わずにおり,退職直前になって異議申立てをしたものであるとして,原告について大幅な過失相殺がされるべきである旨主張する。たしかに,法は,被保険者資格の取得について,単に事業主に報告を義務付けているだけでなく,被保険者自身による確認の請求を認めているのであるから,その不行使の事実をもって被保険者の過失と評価すべき余地があることは否定できない。しかし,本件においては,前記認定のとおり,原告の採用に際し,被告担当者が社会保険加入の資格に関して事実に反する説明をしており,それが原因で原告も社会保険の加入を諦めていたものであること,その後,原告は,社会保険事務所への相談で加入資格があることを知るに至ったものの,その際も,一方では被告が給料の減額や退職などの不利益処遇を口にし,他方では社会保険事務所への相談でも事態の解決に至らなかったものであり,このような状態で確認の請求を期待することは困難を強いるものというべきこと,原告は,折に触れて社会保険事務所等での相談をし,その結果,過去分の遡及的加入も実現したものであることなど前記認定のような事情からすれば,被保険者にも確認の請求が認められているとの事情を考慮しても,本件において原告に過失があったものということはできない。』

確かに,被保険者による確認請求が認められていますが,それはあくまで被保険者に与えられた権利であって,被保険者の義務ではありません。したがって,単に被保険者が確認請求をしなかったことをもって被保険者側の過失とすることは相当ではないでしょう。

ただし,被保険者が単に確認請求を行わないだけではなく,厚生年金への加入を一切求めていなかったり,あるいは,加入しないことについて同意していたような場合には,被保険者側に過失が認められ,過失相殺が行われる可能性が十分にありますので,注意が必要です。

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厚生年金未加入に対する対応策・その6~事業主に対する損害賠償請求~

事業主と被保険者の間で義務違反が認められれば,事業主が届出を行わなかったことによる損害賠償が認められることになりますが,その場合の損害をどのように算定するかについては問題があります。

損害とは,大きく以下の3つに分けることができます。

①積極損害(事業主の義務違反によって支出を余儀なくされたもの)
②消極損害(事業主の義務違反によって,本来得られるはずなのに得られなくなった利益)
③精神的損害(慰謝料)

このうち,①の積極損害については,厚生年金に加入できなかった間に支出した国民年金保険料等が考えられるでしょう。

問題は②の消極損害(逸失利益)です。

②について,被保険者が既に年金の受給を開始している場合であれば,損害(=減少した年金額)の算定は比較的容易です。
ところが,被保険者がまだ年金の受給を開始していなかったり,年金の受給に必要な資格期間を満たしていないような場合には,そもそも将来年金を受給できるのかどうかさえ確定していないため,未加入によってどれほどの損害が発生したのか(=どれだけ受給できる年金額が減ったのか)を算定することは極めて困難です。

裁判例も,年金受給を開始している場合や,受給資格期間を満たしている場合には損害賠償を認める傾向にありますが,受給資格期間を満たしていない場合については,損害が発生していない,あるいは損害額が明らかでないとして,損害賠償請求を認めないものが存在します。
ただ,②の逸失利益が認められないような場合であっても,年金制度が強制加入とされていることの趣旨に鑑みれば,保険料徴収権の時効消滅により将来の年金受給権に影響が及ぶ可能性がある以上,③の慰謝料による救済を広く認めることが検討されて良いのではないでしょうか。

豊國工業事件の判決の考え方によれば,この①~③の合計額につき,
④本来,被保険者が負担すべきであった保険料額を①②から控除し,
⑤被保険者に落ち度があれば過失相殺が行われ,
最終的な損害賠償額が確定することになります。
(なお,私見としては,④の控除を認めることには疑問があります。)

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2013年5月16日 (木)

厚生年金未加入に対する対応策・その5~事業主に対する損害賠償請求~

厚生年金への未加入を理由に、被保険者が事業主に対して損害賠償を請求する場合、債務不履行や不法行為に基づく構成が考えられますが、いずれの構成によるにせよ、事業主が被保険者との関係で、被保険者資格の届出を(厚生労働大臣に対し)行う義務があるといえなければなりません。

厚生年金保険法27条は、事業主に対し、被保険者資格の取得を厚生労働大臣に届け出るよう義務づけていますが、この義務が、事業主と保険者の間における義務(=「公法上の義務」)にとどまるのか、それとも、事業主と被保険者間における義務(=「私法上の義務」)であるといえるのかは解釈の余地があり、いくつかの裁判例で争われてきました。

かつては、事業主が負う義務は、被保険者との間における公法上の義務にとどまるとして、被保険者からの損害賠償請求を否定する裁判例(エコープランニング事件。大阪地判平成11年7月13日)も存在しましたが、以下でご紹介する豊國工業事件(奈良地判平成18年9月5日)等では、事業主と被保険者の間における義務違反が認められています。

『…被告は,原告がそれぞれの被保険者としての資格を取得したことを,各保険者(健康保険については大阪文紙事務機器健康保険組合,厚生年金については社会保険庁長官,厚生年金基金については関西文紙事務器厚生年金基金)に,それぞれ届け出る義務を負う(健康保険法48条,厚生年金保険法27条,128条)というべきところ,被告は,これを怠り,平成16年10月に至って過去2年間分について遡及して加入する手続をしたに過ぎないから,被告には上記の届出義務を怠った違法がある。そして,法が上記のとおり事業主に対して被保険者の資格取得について各保険者に対する届出を義務付けたのは,これら保険制度への強制加入の原則を実現するためであると解されるところ,法がこのような強制加入の原則を採用したのは,これら保険制度の財政基盤を強化することが主たる目的であると解されるが,それのみに止まらず,当該事業所で使用される特定の労働者に対して保険給付を受ける権利を具体的に保障する目的をも有するものと解すべきであり,また,使用者たる事業主が被保険者資格を取得した個別の労働者に関してその届出をすることは,雇用契約を締結する労働者においても期待するのが通常であり,その期待は合理的なものというべきである。これらの事情からすれば,事業主が法の要求する前記の届出を怠ることは,被保険者資格を取得した当該労働者の法益をも直接に侵害する違法なものであり,労働契約上の債務不履行をも構成するものと解すべきである。』

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2013年5月15日 (水)

厚生年金未加入に対する対応策・その4~事業主に対する損害賠償請求~

前回の記事の通り,保険料徴収権の時効消滅前に確認請求をすることができれば,保険料徴収権が時効消滅してしまうことに伴う不利益を回避することができます。

しかし,確認請求の制度をご存じでない方も多くいらっしゃるでしょうし,あるいは,事業主から「厚生年金に加入する資格がない」という虚偽の説明を受けたり,「厚生年金に加入しないことを条件に雇用する」などと言われたりするなどして,確認請求に至らないケースも多く存在することと思います。

このようなケースで保険料徴収権が消滅してしまった場合,対応策の1つとして,事業主に対する損害賠償請求を検討することになります。

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2013年5月13日 (月)

厚生年金未加入に対する対応策・その3~被保険者による確認請求~

このように,本来であれば,事業主による届出(厚年27条)→厚生労働大臣による確認(厚年18条)という手続が踏まれるはずなのですが,前々回の記事のとおり,保険料負担を嫌う事業主が,あえてこの手続を行わないという事態が生じ得ます。

厚生年金の保険料徴収権は2年で時効消滅すると定められており(厚年92条1項),保険料徴収権が時効消滅した後は,保険料を納付することができません。
そして,保険料徴収権が時効消滅してしまうと,時効消滅した保険料に係る被保険者期間に基づく保険給付が行われない(厚年75条本文)という不利益が生じることになります。

このような不利益を避けるための1つの方法として,被保険者自身による確認請求(厚年31条1項)があります。

厚生年金保険法31条1項は,「被保険者又は被保険者であった者は,いつでも,第18条1項の規定による確認の請求をすることができる。」と定めており,同法18条2項も「前項の(厚生労働大臣による)確認は,第27条の規定による届出もしくは第31条第1項の規定による請求により,又は職権で行うものとする。」としています。

この確認請求をしておけば,その後保険料の納付がなされず,保険料徴収権が時効消滅したとしても,その保険料に係る被保険者期間に基づく保険給付は行われますので(厚年75条但書),事業主が届出をしないことによる不利益を避けることができるのです。

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厚生年金未加入に対する対応策・その2

そもそも,厚生年金への加入手続はどのように行われるのでしょうか。

厚生年金の被保険者資格については,厚生年金保険法9条が「適用事業所に使用される70歳未満の者」と定めています。
もっとも,厚生年金保険法は,被保険者資格の取得は「厚生労働大臣の確認によって,その効力を生ずる」(厚年18条1項)と定めていますので,厚生年金の被保険者となる(=厚生年金に加入する)ためには,厚生労働大臣による確認を受ける必要があります(ただし,その資格の取得時期は,厚生労働大臣による確認の時点ではなく,適用事業所に使用されるに至った日とされます。厚年13条1項)。

そして,厚生労働大臣による確認の前提として,厚生年金保険法は,事業主に対し,被保険者資格の取得を厚生労働大臣に届け出ることを義務づけています(厚年27条)。
この届出義務を懈怠した事業主に対しては罰則も定められており(厚年102条1項),通常は,この届出をもとに,厚生労働大臣が被保険者資格の確認をすることになります。

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2013年5月 9日 (木)

厚生年金未加入に対する対応策・その1

サラリーマンやOLなど,民間企業にお勤めの方の場合,会社によって厚生年金の加入手続が行われ,保険料が源泉徴収されている方がほとんどであろうと思います。

ところが,必ずしもすべての会社(=事業主)が加入手続をしてくれるとは限りません。
厚生年金保険料は事業主と被保険者の折半とされているため(厚年法82条),保険料の負担を嫌う事業主が,あえて加入手続をしないという事態が生じます。

次からの記事では,このような事態が生じてしまう仕組みと,これに対して被用者が取り得る対応策についてご紹介したいと思います。

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2013年4月27日 (土)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その5

前回までの記事でご紹介したとおり,東京高裁と名古屋高裁の判断は分かれていますが,どちらの判断が正当といえるでしょうか。

両裁判例が引用する最判平成7年11月7日の判示するところによれば,受給権者は,社会保険庁長官の裁定を受けるまでは年金の支給を受けることはできないのですから,社会保険庁長官の裁定は,支分権の効力発生(名古屋高裁判決に則して表現すれば,支分権の具体化)について停止条件と同様の機能を果たしているということができます。

もっとも,支分権の効力発生条件として社会保険庁長官の裁定を要求しているのは国民年金法16条(及び同条の解釈)ですから,支分権の効力発生の条件は,停止条件そのものではありません。しかし,このような法定の条件の成就の場合についても,停止条件付法律行為の効力発生について定める民法127条1項に類して考えることが可能であると考えられます 。

したがって,私見としては,(裁定前の)支分権についての「権利を行使することができる時」は,停止条件付債権の場合と同様に,条件成就の時(=社会保険庁長官による裁定時)と解すべきであり,名古屋高裁判決の判示が正当であると考えています 。

おそらく,この問題については,いずれ最高裁の判断が下されるのではないかと思いますので,今後も注目していきたいと思います。

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2013年4月24日 (水)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その4

前回の記事でご紹介した東京高判平成23年4月20日に対し、名古屋高判平成24年4月20日は以下のとおり判示しています。

『…国民年金法16条は,年金給付を受ける権利(基本権)について,受給権者の請求に基づき社会保険庁長官が裁定するものと規定しているところ,これは,画一公平な処理により無用の紛争を防止し,給付の法的確実性を担保するため,その権利の発生要件の存否や金額等につき,公権的に確認するのが相当であるとの見地から,基本権たる受給権について,社会保険庁長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものであるから(最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号2829頁参照),社会保険庁長官による裁定がされる前は,支分権についても,現実に給付を受けることはできないことは明らかである
 そうすると,国民年金法が,受給権の発生要件や年金給付の支給時期,金額について定めており(同法18条,30条,33条等参照),社会保険庁長官の裁定は,上記のとおり,確認行為にすぎないことを考慮しても,受給権者は,基本権について,社会保険庁長官に対して裁定請求をし,社会保険庁長官の裁定を受けない限り,支分権を行使することができないのであって,社会保険庁長官の裁定を受けるまでは,支分権は,未だ具体化していないものというほかはない
 したがって,社会保険庁長官の裁定を受けていないことは,支分権の消滅時効との関係で,法律上の障碍に当たり,時効の進行の妨げになるというべきである(このように解しても,時効の中断,停止などの事情がない限り,国民年金法102条により,権利発生の日から5年が経過すれば,基本権について消滅時効が完成するのであるから,特段の問題が生じることはないものと考えられる。…。)。』

この名古屋高裁判決は、たとえ受給権者が裁定請求をしても、社会保険庁長官による裁定がなされなければ受給権者が年金を受給することができないことから、未裁定であることは法律上の障害にあたり、裁定を受けるまでは消滅時効は進行しないと結論づけています。

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2013年4月 3日 (水)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その3

前回までの記事で述べた問題点について,東京地判平成22年11月12日は以下のように判示し,東京高判平成23年4月20日もこれを踏襲しました。

『…年金支給を受ける権利(支分権)の消滅時効は,一般の私人間の金銭債権と同様に,「権利を行使することができる時」から進行するとされる(会計法31条2項後段,民法166条1項)ところ,原告は,受給権についての裁定を受けていないことが,年金の支給請求という権利行使についての法律上の障害である旨主張するので,以下,検討する。
…国民年金制度においては,受給権(基本権)とこれに基づき発生する年金の支給を受ける権利(支分権)とが観念されるが,年金の支給を受けるためには受給権(基本権)の確認行為である裁定を要するとされるから,受給権についての裁定を受けていないことは,消滅時効の起算点との関係で,(裁定前の)年金の支給を受ける権利(支分権)の行使についての法律上の障害に当たるとも考えられる。
しかしながら,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)は,裁定を受けない限り,現実に支給を受けることはできないという意味で具体的な権利ということはできないものの,受給権の発生要件や年金給付の支給時期・金額について明確な規定(国民年金法18条1項,旧国年法26条,27条,29条の3,29条の4)が設けられていることや…裁定が確認行為であることに照らすと,年金給付の支給事由が生じた後は,受給権者が受給権についての裁定請求をしないままに経過した場合においても,その支給事由が生じた日の属する月の翌月から支給を始めるべきものとして,年金支給を受ける権利(支分権)は順次潜在的・抽象的には発生するものと観念することができる。他方,受給権者は,受給権についての裁定請求をして行政庁の裁定を受けさえすれば,直ちに,当該裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)を行使することができるものであるから,上記の場合における裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)(裁定を受けさえすれば,現実に行使することができる権利)については,一定期間継続した権利不行使の状態という客観的事実が生じているとみることができる。そうであるとすれば,このような客観的事実に基づいて,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)が時効により消滅するものと解することは,一定期間継続した権利不行使の状態という客観的な事実に基づいて権利を消滅させ,もって法律関係の安定を図るという消滅時効制度の趣旨(最高裁昭和48年(オ)第647号同49年12月20日第2小法廷判決・民集28巻10号2072頁参照)にかなうものということができる。…国民年金制度は,被保険者が,老齢,障害又は死亡によってその生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを意図したものであるが,年金の受給は被保険者(受給権者)の利益のためのものであり,旧国年法16条も受給権者の「請求に基いて」と規定し,受給権者からの権利行使がされることを前提としていると解されることに照らせば,受給権者が受給権についての裁定請求をせず,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)の行使がされない状態が一定期間にわたって継続している以上,その事実に基づいて権利を消滅させることが直ちに国民年金制度に背理するということもできない。また,このような状態は,上記のとおり,受給権者において受給権についての裁定請求をすることにより行政庁の裁定を受ければ解消することができ(もとより,受給権についての裁定は行政庁によりされるものであるが,上記のとおり受給権の発生要件や年金給付の支給時期・金額については明確な規定が設けられているから,上記裁定は,上記…のとおり給付主体と相手方との間の紛争を防止し,給付の法的確実性を担保する見地から行われる確認行為にすぎず,裁定及びその後にされる支給の額,時期に行政庁の裁量的判断は含まれないと解される(仮に受給権者において裁定請求をしたにもかかわらず行政庁が裁定をしない場合には,受給権者において不作為の違法確認の訴えや義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条5項,6項2号)を提起することにより対処が可能である。)。),他方,年金の支給を受ける権利(支分権)を行使するに当たっては,受給権者において,裁定請求をすることのほかに特段の行為や負担を要するものでもなく,裁定請求をすることがちゅうちょされる事情もうかがわれないから,権利の性質に照らしても,その権利行使が現実に期待のできるものであるということもできる。
上記諸点にかんがみると,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)については,受給権についての裁定請求をして行政庁の裁定を受けない限り,現実にその支給を受けることはできないが,そのような障害は受給権者において裁定請求をしさえすれば除くことができるものということができるから,たとえ受給権についての裁定請求がされず行政庁の裁定がされていないとしても,その消滅時効の進行を止めるものではないというべきである。

要するに,東京高裁判決の立場は,「受給権者が裁定請求をしさえすれば裁定を受けることができ,権利行使が可能な状態にあるといえるので,②年金の支分権については,未裁定であっても支払期月の到来時から消滅時効が進行する」というものです。

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2013年2月24日 (日)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その2

ところで,②年金の支分権は,支払期月が到来すれば当然に支払いが受けられる,というわけではありません。

国民年金法16条(厚生年金保険法33条)は,「(保険)給付を受ける権利は、その権利を有する者(以下「受給権者」という。)の請求に基いて、厚生労働大臣が裁定する。」と定めていますが,最高裁は,この規定について以下のとおり判示しています。

『(国民年金法16条)は、給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき社会保険庁長官が裁定するものとしているが、これは、画一公平な処理により無用の紛争を防止し、給付の法的確実性を担保するため、その権利の発生要件の存否や金額等につき同長官が公権的に確認するのが相当であるとの見地から、基本権たる受給権について、同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである。』(平成7年11月7日最高裁判所第三小法廷判決)

この国民年金法16条の規定と,同条について最高裁が判示したところによると,年金受給権者は,基本権たる年金受給権について厚生労働大臣(最高裁判例の当時は社会保険庁長官)の裁定を受けない限り,支分権たる年金受給権を行使できないということなります。

そのため,裁定を受けていないにもかかわらず支払期月が到来してしまった②年金の支分権について,消滅時効の起算点をどのように考えるか(支払期月が到来している以上,支払期月の到来時から消滅時効が進行すると考えるか,それとも,裁定を受けていない以上,消滅時効は進行しないと考えるか)見解が分かれているのです。
(これとは異なり,裁定を受け,かつ,支払期月が到来している②年金の支分権については,支払期月の到来時が消滅時効の起算点になると考えられています)

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2013年2月18日 (月)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その1

年金の支給を受ける権利も,他の債権と同じように時効により消滅します。

具体的には,
①年金の基本権(年金給付を受ける権利)
②年金の支分権(①の基本権に基づき,支払期月ごとに年金給付を受ける権利)
とも,支給事由の生じた日から5年を経過したときは,時効によって消滅します(国民年金法102条1項,厚生年金保険法92条1項)。

もっとも,5年を経過したら自動的に時効消滅するわけではなく,国による時効の援用が必要であるとされています(国民年金法102条3項,厚生年金保険法92条4項)。

ところで,上記の取扱いは平成19年7月6日に法律が改正されたことによるもので,それ以前は,②年金の支分権については,国民年金法も厚生年金保険法も規定を置いていませんでした。

そのため,②年金の支分権については,「国に対する権利で,金銭の給付を目的とするもの」として会計法及び民法の適用を受けるとされていました。
具体的には,
・消滅時効期間は5年間(会計法30条)
・消滅時効の起算点は「権利を行使することができる時」(会計法31条2項,民法166条1項)
・時効の援用は不要であり,時効の利益を放棄することもできない(会計法31条)
とされていたのです。
時効の援用が不要であるということは,「権利を行使することができる時」から5年を経過すると,自動的に権利が消滅していくということです。

もっとも,時効期間は「権利を行使することができる時」から5年ですから,権利を行使することができないのであれば,時効期間は進行せず,消滅時効は完成しません。
そのため,②年金の支分権について「権利を行使できることができる時」はいつなのかが重要な問題になりますが,現在,この問題について東京高裁と名古屋高裁で判断が分かれています。

次の記事から,この問題について詳しく検討してみたいと思います。

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