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公的年金

2017年10月21日 (土)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その6

以前記事を書いた,年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点について,平成29年10月17日に最高裁の判決が出ました。

私見では,(裁定前の)支分権についての「権利を行使することができる時」は,停止条件付債権の場合と同様に,条件成就の時(=社会保険庁長官による裁定時)であり,裁定までは消滅時効期間は進行しないと考えていましたが,今回,最高裁は「障害年金に係る裁定を受ける前であっても,厚生年金保険法36条所定の支払期が到来した時から進行する」として,裁定の前であっても消滅時効期間は進行すると判断しました。

個人的には,この最高裁の判断には疑問が残りますが,判決内容についての詳細な検討は,追ってブログ等で記事にしようと思います。

【最三判平成29年10月17日】
厚生年金保険法(昭和60年法律第34号による改正前のもの)47条に基づく障害年金の支給を受ける権利の消滅時効は,当該障害年金に係る裁定を受ける前であっても,厚生年金保険法36条所定の支払期が到来した時から進行する。
(判決全文はこちら

2015年1月19日 (月)

厚生年金未加入に対する対応策・その10~年金記録第三者委員会への申立て~

時効消滅した保険料に係る被保険者期間について,将来の年金額に反映してもらうためには,まず,年金記録第三者委員会に,記録の訂正を申し立てる必要があります。

被保険者からの申し立てを受けると,年金記録第三者委員会は,提出された資料をもとに,事業主が被保険者から保険料を徴収していたか否か(=給与から源泉徴収されていた事実があったか否か)等を判断します。

そして,年金記録第三者委員会が,保険料の源泉徴収があった(かつ,事業主がその保険料を納付したかが明らかでない)と認定した場合,厚生労働大臣は,年金記録第三者委員会の意見にしたがって,被保険者資格取得の確認や,標準報酬月額の決定等を行い(厚生年金特例法1条1項),被保険者の年金記録を訂正します(同条2項)。

この訂正があると,時効消滅の前に事業主による届出(厚年27条)があったものとして扱われ,厚生年金保険法75条但書の適用が受けられることになります。

この手続によって,時効消滅した保険料に係る被保険者期間についても,将来の年金額に反映されることとなるのです。

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厚生年金未加入に対する対応策・その9~年金記録第三者委員会への申立て~

給与明細上,厚生年金保険料が源泉徴収されていたということは,被保険者自身は保険料を負担していたことになります。

このような場合に保険料徴収権が時効消滅したということは,被保険者から保険料を徴収した事業主が厚生労働大臣への届出を怠り,
被保険者から徴収した保険料を保険者に納付しなかった,ということになりますが,このような場合にまで,時効消滅した保険料に係る被保険者期間分の保険給付が行われないとすれば,それは極めて不合理です。

このように,年金保険料を負担した記録がありながら,社会保険庁の年金記録に反映されていないという事態が多数生じ,いわゆる「消えた年金」問題として社会問題化しました。

この「消えた年金」問題への対策として,「厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律」(=厚生年金特例法)が制定され,平成19年12月19日から施行されています。

この厚生年金特例法は,厚生年金保険料が源泉徴収されていた場合などには,事業主による届出や被保険者による確認請求の前に時効消滅した保険料に係る被保険者期間についても,将来の年金額に反映させることとし,そのための手続を定めています。

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厚生年金未加入に対する対応策・その8~年金記録第三者委員会への申立て~

前回までの記事では,厚生年金の保険料徴収権が時効消滅した場合の対応策として,事業主に対する損害賠償請求についてご紹介しました。

この損害賠償請求以外に,給与明細上で厚生年金保険料が源泉徴収されていた(それにもかかわらず,厚生年金に未加入となっていた)ような場合には,年金記録第三者委員会への申立てを利用することが可能です。

次からの記事では,この申立ての手続についてご紹介します。

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厚生年金未加入に対する対応策・その7~事業主に対する損害賠償請求~

⑤の過失相殺については,厚生年金保険法31条1項が被保険者に確認請求を認めている事との関係で,被保険者が確認請求をしなかったことが被保険者側の過失となるかが問題となります。

この問題について,前の記事でご紹介した豊國工業事件判決(奈良地判平成18年9月5日)は,以下のとおり判示して,過失相殺を認めませんでした。

『…被告は,原告が時給が減額されるという理由で社会保険加入を断ったものであり,厚生年金保険法31条によれば,被保険者又は被保険者であった者は,いつでも18条1項の規定による確認(被保険者の資格の取得及び喪失についての社会保険庁長官の確認)を請求することができるのに,原告はその請求をせず,被告のした処理に関し,長年にわたって何らの異議申立てを行わずにおり,退職直前になって異議申立てをしたものであるとして,原告について大幅な過失相殺がされるべきである旨主張する。たしかに,法は,被保険者資格の取得について,単に事業主に報告を義務付けているだけでなく,被保険者自身による確認の請求を認めているのであるから,その不行使の事実をもって被保険者の過失と評価すべき余地があることは否定できない。しかし,本件においては,前記認定のとおり,原告の採用に際し,被告担当者が社会保険加入の資格に関して事実に反する説明をしており,それが原因で原告も社会保険の加入を諦めていたものであること,その後,原告は,社会保険事務所への相談で加入資格があることを知るに至ったものの,その際も,一方では被告が給料の減額や退職などの不利益処遇を口にし,他方では社会保険事務所への相談でも事態の解決に至らなかったものであり,このような状態で確認の請求を期待することは困難を強いるものというべきこと,原告は,折に触れて社会保険事務所等での相談をし,その結果,過去分の遡及的加入も実現したものであることなど前記認定のような事情からすれば,被保険者にも確認の請求が認められているとの事情を考慮しても,本件において原告に過失があったものということはできない。』

確かに,被保険者による確認請求が認められていますが,それはあくまで被保険者に与えられた権利であって,被保険者の義務ではありません。したがって,単に被保険者が確認請求をしなかったことをもって被保険者側の過失とすることは相当ではないでしょう。

ただし,被保険者が単に確認請求を行わないだけではなく,厚生年金への加入を一切求めていなかったり,あるいは,加入しないことについて同意していたような場合には,被保険者側に過失が認められ,過失相殺が行われる可能性が十分にありますので,注意が必要です。

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厚生年金未加入に対する対応策・その6~事業主に対する損害賠償請求~

事業主と被保険者の間で義務違反が認められれば,事業主が届出を行わなかったことによる損害賠償が認められることになりますが,その場合の損害をどのように算定するかについては問題があります。

損害とは,大きく以下の3つに分けることができます。

①積極損害(事業主の義務違反によって支出を余儀なくされたもの)
②消極損害(事業主の義務違反によって,本来得られるはずなのに得られなくなった利益)
③精神的損害(慰謝料)

このうち,①の積極損害については,厚生年金に加入できなかった間に支出した国民年金保険料等が考えられるでしょう。

問題は②の消極損害(逸失利益)です。

②について,被保険者が既に年金の受給を開始している場合であれば,損害(=減少した年金額)の算定は比較的容易です。
ところが,被保険者がまだ年金の受給を開始していなかったり,年金の受給に必要な資格期間を満たしていないような場合には,そもそも将来年金を受給できるのかどうかさえ確定していないため,未加入によってどれほどの損害が発生したのか(=どれだけ受給できる年金額が減ったのか)を算定することは極めて困難です。

裁判例も,年金受給を開始している場合や,受給資格期間を満たしている場合には損害賠償を認める傾向にありますが,受給資格期間を満たしていない場合については,損害が発生していない,あるいは損害額が明らかでないとして,損害賠償請求を認めないものが存在します。
ただ,②の逸失利益が認められないような場合であっても,年金制度が強制加入とされていることの趣旨に鑑みれば,保険料徴収権の時効消滅により将来の年金受給権に影響が及ぶ可能性がある以上,③の慰謝料による救済を広く認めることが検討されて良いのではないでしょうか。

豊國工業事件の判決の考え方によれば,この①~③の合計額につき,
④本来,被保険者が負担すべきであった保険料額を①②から控除し,
⑤被保険者に落ち度があれば過失相殺が行われ,
最終的な損害賠償額が確定することになります。
(なお,私見としては,④の控除を認めることには疑問があります。)

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2013年5月16日 (木)

厚生年金未加入に対する対応策・その5~事業主に対する損害賠償請求~

厚生年金への未加入を理由に、被保険者が事業主に対して損害賠償を請求する場合、債務不履行や不法行為に基づく構成が考えられますが、いずれの構成によるにせよ、事業主が被保険者との関係で、被保険者資格の届出を(厚生労働大臣に対し)行う義務があるといえなければなりません。

厚生年金保険法27条は、事業主に対し、被保険者資格の取得を厚生労働大臣に届け出るよう義務づけていますが、この義務が、事業主と保険者の間における義務(=「公法上の義務」)にとどまるのか、それとも、事業主と被保険者間における義務(=「私法上の義務」)であるといえるのかは解釈の余地があり、いくつかの裁判例で争われてきました。

かつては、事業主が負う義務は、被保険者との間における公法上の義務にとどまるとして、被保険者からの損害賠償請求を否定する裁判例(エコープランニング事件。大阪地判平成11年7月13日)も存在しましたが、以下でご紹介する豊國工業事件(奈良地判平成18年9月5日)等では、事業主と被保険者の間における義務違反が認められています。

『…被告は,原告がそれぞれの被保険者としての資格を取得したことを,各保険者(健康保険については大阪文紙事務機器健康保険組合,厚生年金については社会保険庁長官,厚生年金基金については関西文紙事務器厚生年金基金)に,それぞれ届け出る義務を負う(健康保険法48条,厚生年金保険法27条,128条)というべきところ,被告は,これを怠り,平成16年10月に至って過去2年間分について遡及して加入する手続をしたに過ぎないから,被告には上記の届出義務を怠った違法がある。そして,法が上記のとおり事業主に対して被保険者の資格取得について各保険者に対する届出を義務付けたのは,これら保険制度への強制加入の原則を実現するためであると解されるところ,法がこのような強制加入の原則を採用したのは,これら保険制度の財政基盤を強化することが主たる目的であると解されるが,それのみに止まらず,当該事業所で使用される特定の労働者に対して保険給付を受ける権利を具体的に保障する目的をも有するものと解すべきであり,また,使用者たる事業主が被保険者資格を取得した個別の労働者に関してその届出をすることは,雇用契約を締結する労働者においても期待するのが通常であり,その期待は合理的なものというべきである。これらの事情からすれば,事業主が法の要求する前記の届出を怠ることは,被保険者資格を取得した当該労働者の法益をも直接に侵害する違法なものであり,労働契約上の債務不履行をも構成するものと解すべきである。』

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2013年5月15日 (水)

厚生年金未加入に対する対応策・その4~事業主に対する損害賠償請求~

前回の記事の通り,保険料徴収権の時効消滅前に確認請求をすることができれば,保険料徴収権が時効消滅してしまうことに伴う不利益を回避することができます。

しかし,確認請求の制度をご存じでない方も多くいらっしゃるでしょうし,あるいは,事業主から「厚生年金に加入する資格がない」という虚偽の説明を受けたり,「厚生年金に加入しないことを条件に雇用する」などと言われたりするなどして,確認請求に至らないケースも多く存在することと思います。

このようなケースで保険料徴収権が消滅してしまった場合,対応策の1つとして,事業主に対する損害賠償請求を検討することになります。

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2013年5月13日 (月)

厚生年金未加入に対する対応策・その3~被保険者による確認請求~

このように,本来であれば,事業主による届出(厚年27条)→厚生労働大臣による確認(厚年18条)という手続が踏まれるはずなのですが,前々回の記事のとおり,保険料負担を嫌う事業主が,あえてこの手続を行わないという事態が生じ得ます。

厚生年金の保険料徴収権は2年で時効消滅すると定められており(厚年92条1項),保険料徴収権が時効消滅した後は,保険料を納付することができません。
そして,保険料徴収権が時効消滅してしまうと,時効消滅した保険料に係る被保険者期間に基づく保険給付が行われない(厚年75条本文)という不利益が生じることになります。

このような不利益を避けるための1つの方法として,被保険者自身による確認請求(厚年31条1項)があります。

厚生年金保険法31条1項は,「被保険者又は被保険者であった者は,いつでも,第18条1項の規定による確認の請求をすることができる。」と定めており,同法18条2項も「前項の(厚生労働大臣による)確認は,第27条の規定による届出もしくは第31条第1項の規定による請求により,又は職権で行うものとする。」としています。

この確認請求をしておけば,その後保険料の納付がなされず,保険料徴収権が時効消滅したとしても,その保険料に係る被保険者期間に基づく保険給付は行われますので(厚年75条但書),事業主が届出をしないことによる不利益を避けることができるのです。

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厚生年金未加入に対する対応策・その2

そもそも,厚生年金への加入手続はどのように行われるのでしょうか。

厚生年金の被保険者資格については,厚生年金保険法9条が「適用事業所に使用される70歳未満の者」と定めています。
もっとも,厚生年金保険法は,被保険者資格の取得は「厚生労働大臣の確認によって,その効力を生ずる」(厚年18条1項)と定めていますので,厚生年金の被保険者となる(=厚生年金に加入する)ためには,厚生労働大臣による確認を受ける必要があります(ただし,その資格の取得時期は,厚生労働大臣による確認の時点ではなく,適用事業所に使用されるに至った日とされます。厚年13条1項)。

そして,厚生労働大臣による確認の前提として,厚生年金保険法は,事業主に対し,被保険者資格の取得を厚生労働大臣に届け出ることを義務づけています(厚年27条)。
この届出義務を懈怠した事業主に対しては罰則も定められており(厚年102条1項),通常は,この届出をもとに,厚生労働大臣が被保険者資格の確認をすることになります。

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2013年5月 9日 (木)

厚生年金未加入に対する対応策・その1

サラリーマンやOLなど,民間企業にお勤めの方の場合,会社によって厚生年金の加入手続が行われ,保険料が源泉徴収されている方がほとんどであろうと思います。

ところが,必ずしもすべての会社(=事業主)が加入手続をしてくれるとは限りません。
厚生年金保険料は事業主と被保険者の折半とされているため(厚年法82条),保険料の負担を嫌う事業主が,あえて加入手続をしないという事態が生じます。

次からの記事では,このような事態が生じてしまう仕組みと,これに対して被用者が取り得る対応策についてご紹介したいと思います。

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2013年4月27日 (土)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その5

前回までの記事でご紹介したとおり,東京高裁と名古屋高裁の判断は分かれていますが,どちらの判断が正当といえるでしょうか。

両裁判例が引用する最判平成7年11月7日の判示するところによれば,受給権者は,社会保険庁長官の裁定を受けるまでは年金の支給を受けることはできないのですから,社会保険庁長官の裁定は,支分権の効力発生(名古屋高裁判決に則して表現すれば,支分権の具体化)について停止条件と同様の機能を果たしているということができます。

もっとも,支分権の効力発生条件として社会保険庁長官の裁定を要求しているのは国民年金法16条(及び同条の解釈)ですから,支分権の効力発生の条件は,停止条件そのものではありません。しかし,このような法定の条件の成就の場合についても,停止条件付法律行為の効力発生について定める民法127条1項に類して考えることが可能であると考えられます 。

したがって,私見としては,(裁定前の)支分権についての「権利を行使することができる時」は,停止条件付債権の場合と同様に,条件成就の時(=社会保険庁長官による裁定時)と解すべきであり,名古屋高裁判決の判示が正当であると考えています 。

おそらく,この問題については,いずれ最高裁の判断が下されるのではないかと思いますので,今後も注目していきたいと思います。

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2013年4月24日 (水)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その4

前回の記事でご紹介した東京高判平成23年4月20日に対し、名古屋高判平成24年4月20日は以下のとおり判示しています。

『…国民年金法16条は,年金給付を受ける権利(基本権)について,受給権者の請求に基づき社会保険庁長官が裁定するものと規定しているところ,これは,画一公平な処理により無用の紛争を防止し,給付の法的確実性を担保するため,その権利の発生要件の存否や金額等につき,公権的に確認するのが相当であるとの見地から,基本権たる受給権について,社会保険庁長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものであるから(最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号2829頁参照),社会保険庁長官による裁定がされる前は,支分権についても,現実に給付を受けることはできないことは明らかである
 そうすると,国民年金法が,受給権の発生要件や年金給付の支給時期,金額について定めており(同法18条,30条,33条等参照),社会保険庁長官の裁定は,上記のとおり,確認行為にすぎないことを考慮しても,受給権者は,基本権について,社会保険庁長官に対して裁定請求をし,社会保険庁長官の裁定を受けない限り,支分権を行使することができないのであって,社会保険庁長官の裁定を受けるまでは,支分権は,未だ具体化していないものというほかはない
 したがって,社会保険庁長官の裁定を受けていないことは,支分権の消滅時効との関係で,法律上の障碍に当たり,時効の進行の妨げになるというべきである(このように解しても,時効の中断,停止などの事情がない限り,国民年金法102条により,権利発生の日から5年が経過すれば,基本権について消滅時効が完成するのであるから,特段の問題が生じることはないものと考えられる。…。)。』

この名古屋高裁判決は、たとえ受給権者が裁定請求をしても、社会保険庁長官による裁定がなされなければ受給権者が年金を受給することができないことから、未裁定であることは法律上の障害にあたり、裁定を受けるまでは消滅時効は進行しないと結論づけています。

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2013年4月 3日 (水)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その3

前回までの記事で述べた問題点について,東京地判平成22年11月12日は以下のように判示し,東京高判平成23年4月20日もこれを踏襲しました。

『…年金支給を受ける権利(支分権)の消滅時効は,一般の私人間の金銭債権と同様に,「権利を行使することができる時」から進行するとされる(会計法31条2項後段,民法166条1項)ところ,原告は,受給権についての裁定を受けていないことが,年金の支給請求という権利行使についての法律上の障害である旨主張するので,以下,検討する。
…国民年金制度においては,受給権(基本権)とこれに基づき発生する年金の支給を受ける権利(支分権)とが観念されるが,年金の支給を受けるためには受給権(基本権)の確認行為である裁定を要するとされるから,受給権についての裁定を受けていないことは,消滅時効の起算点との関係で,(裁定前の)年金の支給を受ける権利(支分権)の行使についての法律上の障害に当たるとも考えられる。
しかしながら,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)は,裁定を受けない限り,現実に支給を受けることはできないという意味で具体的な権利ということはできないものの,受給権の発生要件や年金給付の支給時期・金額について明確な規定(国民年金法18条1項,旧国年法26条,27条,29条の3,29条の4)が設けられていることや…裁定が確認行為であることに照らすと,年金給付の支給事由が生じた後は,受給権者が受給権についての裁定請求をしないままに経過した場合においても,その支給事由が生じた日の属する月の翌月から支給を始めるべきものとして,年金支給を受ける権利(支分権)は順次潜在的・抽象的には発生するものと観念することができる。他方,受給権者は,受給権についての裁定請求をして行政庁の裁定を受けさえすれば,直ちに,当該裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)を行使することができるものであるから,上記の場合における裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)(裁定を受けさえすれば,現実に行使することができる権利)については,一定期間継続した権利不行使の状態という客観的事実が生じているとみることができる。そうであるとすれば,このような客観的事実に基づいて,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)が時効により消滅するものと解することは,一定期間継続した権利不行使の状態という客観的な事実に基づいて権利を消滅させ,もって法律関係の安定を図るという消滅時効制度の趣旨(最高裁昭和48年(オ)第647号同49年12月20日第2小法廷判決・民集28巻10号2072頁参照)にかなうものということができる。…国民年金制度は,被保険者が,老齢,障害又は死亡によってその生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを意図したものであるが,年金の受給は被保険者(受給権者)の利益のためのものであり,旧国年法16条も受給権者の「請求に基いて」と規定し,受給権者からの権利行使がされることを前提としていると解されることに照らせば,受給権者が受給権についての裁定請求をせず,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)の行使がされない状態が一定期間にわたって継続している以上,その事実に基づいて権利を消滅させることが直ちに国民年金制度に背理するということもできない。また,このような状態は,上記のとおり,受給権者において受給権についての裁定請求をすることにより行政庁の裁定を受ければ解消することができ(もとより,受給権についての裁定は行政庁によりされるものであるが,上記のとおり受給権の発生要件や年金給付の支給時期・金額については明確な規定が設けられているから,上記裁定は,上記…のとおり給付主体と相手方との間の紛争を防止し,給付の法的確実性を担保する見地から行われる確認行為にすぎず,裁定及びその後にされる支給の額,時期に行政庁の裁量的判断は含まれないと解される(仮に受給権者において裁定請求をしたにもかかわらず行政庁が裁定をしない場合には,受給権者において不作為の違法確認の訴えや義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条5項,6項2号)を提起することにより対処が可能である。)。),他方,年金の支給を受ける権利(支分権)を行使するに当たっては,受給権者において,裁定請求をすることのほかに特段の行為や負担を要するものでもなく,裁定請求をすることがちゅうちょされる事情もうかがわれないから,権利の性質に照らしても,その権利行使が現実に期待のできるものであるということもできる。
上記諸点にかんがみると,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)については,受給権についての裁定請求をして行政庁の裁定を受けない限り,現実にその支給を受けることはできないが,そのような障害は受給権者において裁定請求をしさえすれば除くことができるものということができるから,たとえ受給権についての裁定請求がされず行政庁の裁定がされていないとしても,その消滅時効の進行を止めるものではないというべきである。

要するに,東京高裁判決の立場は,「受給権者が裁定請求をしさえすれば裁定を受けることができ,権利行使が可能な状態にあるといえるので,②年金の支分権については,未裁定であっても支払期月の到来時から消滅時効が進行する」というものです。

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2013年2月24日 (日)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その2

ところで,②年金の支分権は,支払期月が到来すれば当然に支払いが受けられる,というわけではありません。

国民年金法16条(厚生年金保険法33条)は,「(保険)給付を受ける権利は、その権利を有する者(以下「受給権者」という。)の請求に基いて、厚生労働大臣が裁定する。」と定めていますが,最高裁は,この規定について以下のとおり判示しています。

『(国民年金法16条)は、給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき社会保険庁長官が裁定するものとしているが、これは、画一公平な処理により無用の紛争を防止し、給付の法的確実性を担保するため、その権利の発生要件の存否や金額等につき同長官が公権的に確認するのが相当であるとの見地から、基本権たる受給権について、同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである。』(平成7年11月7日最高裁判所第三小法廷判決)

この国民年金法16条の規定と,同条について最高裁が判示したところによると,年金受給権者は,基本権たる年金受給権について厚生労働大臣(最高裁判例の当時は社会保険庁長官)の裁定を受けない限り,支分権たる年金受給権を行使できないということなります。

そのため,裁定を受けていないにもかかわらず支払期月が到来してしまった②年金の支分権について,消滅時効の起算点をどのように考えるか(支払期月が到来している以上,支払期月の到来時から消滅時効が進行すると考えるか,それとも,裁定を受けていない以上,消滅時効は進行しないと考えるか)見解が分かれているのです。
(これとは異なり,裁定を受け,かつ,支払期月が到来している②年金の支分権については,支払期月の到来時が消滅時効の起算点になると考えられています)

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2013年2月18日 (月)

年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効の起算点・その1

年金の支給を受ける権利も,他の債権と同じように時効により消滅します。

具体的には,
①年金の基本権(年金給付を受ける権利)
②年金の支分権(①の基本権に基づき,支払期月ごとに年金給付を受ける権利)
とも,支給事由の生じた日から5年を経過したときは,時効によって消滅します(国民年金法102条1項,厚生年金保険法92条1項)。

もっとも,5年を経過したら自動的に時効消滅するわけではなく,国による時効の援用が必要であるとされています(国民年金法102条3項,厚生年金保険法92条4項)。

ところで,上記の取扱いは平成19年7月6日に法律が改正されたことによるもので,それ以前は,②年金の支分権については,国民年金法も厚生年金保険法も規定を置いていませんでした。

そのため,②年金の支分権については,「国に対する権利で,金銭の給付を目的とするもの」として会計法及び民法の適用を受けるとされていました。
具体的には,
・消滅時効期間は5年間(会計法30条)
・消滅時効の起算点は「権利を行使することができる時」(会計法31条2項,民法166条1項)
・時効の援用は不要であり,時効の利益を放棄することもできない(会計法31条)
とされていたのです。
時効の援用が不要であるということは,「権利を行使することができる時」から5年を経過すると,自動的に権利が消滅していくということです。

もっとも,時効期間は「権利を行使することができる時」から5年ですから,権利を行使することができないのであれば,時効期間は進行せず,消滅時効は完成しません。
そのため,②年金の支分権について「権利を行使できることができる時」はいつなのかが重要な問題になりますが,現在,この問題について東京高裁と名古屋高裁で判断が分かれています。

次の記事から,この問題について詳しく検討してみたいと思います。

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